【LIFE PICNIC】Vol.7 「人間らしさと人類学」イベントレポート
2024年11月22日、金曜日の夜に開催されたLIFE PICNIC 。今回で7回目を迎えたLIFE PICNICを振り返っていきます。
そもそもLIFE PICNICって??
様々な意味を持つ『LIFE』。生命、暮らし、人生。とっつきにくいテーマかもしれないけれど、誰にも共通でひとしくつながれるテーマ。LIFE PICNICは、そんな『LIFE』を探検するピクニック。おいしいものを片手に、ゲストのエピソードを聞いたり、ピクニック仲間と対話したり。私たちの周りにある当たり前をほぐしながら、その奥にある「自分の言葉」を見つける時間です。
今回は、文化人類学者の松村圭一郎さんをお迎えして、『人間らしさと人類学』というテーマを参加者と一緒に深めていきました。
まずはナビゲーターのしまださんから。
「松村さんは、文化人類学を専門とされていて、エチオピアの農村でのフィールドワークを通して、貧困・開発援助・海外の出稼ぎなどについて研究されています。今日は、松村さんの活動や人生観について伺う中で、異なる価値観に触れたり自分自身に問いかけたりしながら、『人間らしさ』の輪郭を広げ、考えていく時間にしてほしいと思います」
周りの人と3人のグループに分かれ、参加者の方同士の自己紹介からスタートしました。
今回もピクニックのおともは、ならまちパン工房okageさんのサンドイッチです。
松村さんの活動紹介
ここからは、エチオピアの農村でのフィールドワークについて、たっぷりの写真をみながらお話を伺っていきます。
「エチオピアには言語が90ぐらいあって、1番多く話されている言語を行く前にも勉強はしていたのですが、いざ話そうとすると全く出てこなくて…。やはり現地で体を動かしながら学ばないとと思って、靴磨きの少年たちのところへ毎朝通い言葉を教えてもらいました。」
「毎朝、家の中を牛が通るのですが、必ず部屋に糞を落としていくんです。そもそもエチオピアの家の床は牛糞を固めて作っていて、まさに天然の漆喰となって牛糞の上に塗るだけなんです。」
エチオピアの農村の日常のお話に、参加者の皆さんもどんどん引き込まれていきます。
『人類学』ってどんな学問?
「『人類学』はテーマや対象はなんでも良くて、人間でなくても良いんです。病院や軍隊がフィールドになることもあって、大学にある全ての学部に人類学者がいても良いぐらい、どんな場所でも何でもやる広い学問で、何でも屋です。」と松村さん。
研究対象は何でも良いけれど、一環して大切にしていることは、そこで生きている人の日常、暮らしの中に智恵があるという姿勢。松村さんは、出来るだけ長く現場に滞在し、自分目線ではなく現場の人やものの目線で何がおきているか把握しようとしているそうです。そして、『社会学』が近代化した社会を対象とするのに対し、教育やテクノロジー、文明がまだない時代を含めて『人間』がどういう存在だったのかを考えるのが『人類学』の特徴とのこと。
しまださん「本当はトークする側ではなく、参加者の皆さん混ざって一緒に座っていたい感じですか??」
松村さん「そう!皆さんの話を聞きたいです!どんな人が来ていて、何を考えていて、どんな日常なのか、そこにリアリティがあると思っています。」
『人間らしさ』とは??
今回、なぜ『人間らしさ』をテーマにしたのか。それを考えることが今の時代になぜ重要なのか、トークが芯となる部分へと展開していきます。
『人間らしさ』をテーマにした理由についてLIFE PICNIC企画担当から話がありました。
「自分の半生を振り返る機会があって、ここ5年の様々な出来事を通して人間という自分を取り戻した気がしていて。。。ちょうどそのタイミングで松村さんの著書を読んでいた時に『人間らしさ』『人間性』という言葉があり、そこの部分でつながりが持てるのではないかと思って、ぜひテーマにしたいと思いました」
松村さん「人間を考えてきた学問にとって『人間らしい』というのは根本となるテーマです。
AIの進化で様々なことが自動化されている今、どういう風に働くことが人間のあるべき姿なのか?
いま人間がやっていることってどうなっていく?これからの時代の人間の在り方も問われていると思います。AIに頼って、機械の一部になってしまっていないか?という問いかけもできますね。」
ここで松村さんから問いかけが。
「皆さんの中で、人間じゃない!って人いますか?」
思いがけない質問に会場がザワザワとします。
「みなさん、自分は人間だと思っているようですが、ほんと?常に人間ですか?道徳的な規準ではなく、もう少し違う視点で考えると私たちは時々人間じゃなくなっていることはないですか?」
松村さんはエチオピアでの経験を通して、意外と『人間らしさ』をすっと手放している瞬間があることに気づいたそうです。
「エチオピアにいた時に、おじいさんの話をみんなで聞いて笑ったり、かと思えばトラブルが続いて全てがすんなり行かずイライラしたり、、、けれど、人々との一つ一つのやり取りが楽しくて。
日本に戻って来たら、電車に乗る時も何もかもがスムーズで何の感情も動かない。それまでは当たり前で疑問に思わなかったけれど人間じゃなくなっている時間がけっこうあると気がついたんです。」
『らしさ』ってなんだろう?
「そもそも、『人間らしさ』『自分らしさ』の「らしさ」ってなんだろう、どうすれば知れるものですか?」しまださんが松村さんに問いかけます。
松村さん「『人間らしさ』と『自分らしさ』はちょっと違って、、、『自分らしさ』は、自分は自分の事を知っていることが前提で、自分の中にあるイメージだけど、本当にそうなんだろうか?と問い直すことができます。私の場合、エチオピアから日本に帰って来た時、行く前の自分と帰ってきた後の自分が違うように感じたんです。当たり前だった風景が当たり前じゃなくなり、違和感だらけになりました。私自身が違うものになったのか、自分は変わらないけど見え方が広がっただけなのか。どうして違う人間かのように感じたのかを考えることが、『自分らしさ』を紐解くきっかけになると思います。」
「皆さんも職場、進学で周りの環境が大きく変化した時、同じ自分という人間のはずなのに、自分のキャラが大きく変わるという経験はありませんか。そんな時に問いかけてみることが出来ると思います。」
カードを使ったグループワーク
次は、カードを使ったグループワーク。
問いが書かれたブルーとグリーンの2種類のカードを基に、個人ごとにワークをした後で、グループワークで共有していきます。
ブルーのカードには、正に今回のテーマ「『自分らしさ』と聞いて思い浮かんだあなたらしいシーンは?」など自分自身や、人間らしさについて考える問いがありました。
最後にグリーンのカード。「グループの人々と過ごす中で引き出された『わたし』の輪郭はありますか?」の問いが。
皆さん、それぞれの問いや気付きが言葉となって貼り出されました。
最後に松村さんから。
「『人類学』は誰もが取り組める身近な学問です。私がエチオピアで見て来たのも普通に暮らしている人の暮らしです。皆さんの普通の暮らしの中で身の回りに起きている出来事も、問いに結びつき、新たな発見につながっていくと思います。」
編集後記
『人類学』と聞くと、難しく少し遠い学問のように感じていましたが、自分が経験してきた様々な出来事が、発見や問いに結びつくことが分かりました。自分自身を考える時、私は自分の内へ内へと考えてしまいますが、他の人との関わりやそこから見える違いから考えるという人類学的な視点を持つと、外に意識を向けられるという発見がとても新鮮でした。
(文 新渡戸愛子)
次回のご案内
次回は、「マイノリティデザイン」の著者である澤田 智洋さん(世界ゆるスポーツ協会 代表理事) をお迎えし、2025年2月21日(金)に開催予定です。 (※2025年1月上旬に募集開始予定)