[BOOK STORE]富和さん(東大寺福祉療育病院院長・奈良親子レスパイトハウス代表)が選んだ20冊。
富和清隆さん(東大寺福祉療育病院院長・奈良親子レスパイトハウス代表)が選んだ20冊をご紹介いたします。
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富和さんよりメッセージ
“立ち止まり、時空を超える”
診断や治療に悩む時、あの先生ならどう子供に語りかけお母さんに話を聞くかと、かつての恩師を思う。仕事でも日常生活でも、自分では自由にふるまっているつもりでも、多くの人の言葉に支えられて生きている。見て、感じ、思うこともすべて、人類の、あるいはそれ以前の生命進化に支えられてのこと。疑問の答えはネット検索しても得られない。最新情報が最良のヒントとは限らない。今、悩み考えることはたいてい既に誰かが経験したこと。著し残しておいてくれたものを、時空を超えて探しだし、耳を傾ける。読書の楽しみは、今、会えない人とも話し合えること。そうして最近、読み返した本を紹介したい。
本のご紹介(一部)
『星の王子さま』(サン=テグジュペリ著、内藤濯訳、岩波書店)
1943年英語訳が’初版。44年著者は戦線で飛行機とともに消息を経つ。46年母国フランスで出版後、世界中で翻訳され、多くの人に読まれ続けている。王子さまは、キツネに出会って、飼いならされる(特別な存在になる)こと、かんじんなことは目に見えないことを教えられる。その美しい情景と言葉が、いつになっても忘れられない、子供の、そして大人のための物語。
『大乗とは何か』(三枝充悳著、筑摩書房)
19歳の8月、著者が東大寺法華堂不空羂索観音に見入っていたところを僧に声をかけられた経験から始め、広大な大乗の世界を巡り思索、研究してきた跡を語る。終戦で学徒兵から大学に戻った著者は法学部から文学部、哲学、宗教学、印度哲学に移る。自身の学びをもとに、哲学としての仏教、キリスト教との対比などを一般の者に分かりやすく語りかける。
『脳がつくる倫理−科学と哲学から道徳の起源に迫る』(パトリシア・S.チャーチランド著、信原幸弘訳、化学同人)
道徳や倫理は人間に固有なものなのか?利他的行動や共感はヒトに限ったことか?哲学者が脳科学の成果を踏まえて倫理の本質に迫る。多くの人は、生物化学に基づいて道徳の基盤を理解しようとすること自体、非論理的と非難するかもしれない。しかし、人の愛着、愛情、社会的行動を支えるホルモンのオキシトシンが、哺乳類の進化を通じて形をかえずヒトに伝えられてきたことを知る小児科医には、説得性のある主張に思える。
(原稿執筆:富和さん)