【LIFE PICNIC】Vol.11「写るものと写らないもの」イベントレポート
LIFE PICNIC vol.11が2025年11月28日(金)の夜、BONCHIの4F TENで開催されました。
そもそもLIFE PICNICって??
様々な意味を持つ『LIFE』。生命、暮らし、人生。とっつきにくいテーマかもしれないけれど、誰にも共通でひとしくつながれるテーマ。LIFE PICNICは、そんな『LIFE』を探検するピクニック。おいしいものを片手に、ゲストのエピソードを聞いたり、ピクニック仲間と対話したり。私たちの周りにある当たり前をほぐしながら、その奥にある「自分の言葉」を見つける時間です。
今回もピクニックのお供は、okageさんのサンドウィッチです。
本日のゲストは、写真家の幡野広志さん。ナビゲーターは毎度おなじみ、エッセイ作家・MCのしまだあやさんです。
サンドウィッチを食べながら、お隣のピクニック仲間とおしゃべりしたり、くつろいだり…ゆるやかにイベントが始まります。
まずはじめに、本日のテーマについて運営の金さんから。
金さん「幡野さんが昨年出された『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』を拝読しまして…写真をテーマに人生を深めてみたらどうだろう?と思ったのです。そこで考えたテーマ『写るものと写らないもの』。幡野さんとしまださんとみなさんで読み解いていってください。」
写真は何かを写すもの。そこに写っているもの、写らないものって何だろう??
今日も新しい気づきや視点を見つけていきます。
早速、幡野さんの自己紹介から。
幡野さん「こちらが私のプロフィールです。ただ、これでは簡単な経歴は分かっても人柄を伝えることはできません。」
そこで、ご自身で撮られた写真を使って自己紹介をしてくださいました。
写真を撮った時、何があったのか、何を感じたのか。写真と写真に付随するエピソードや感じたことが幡野さんの口から紡がれていきます。
幡野さん「非言語コミュニケーション(声のトーンや身振り手振り)+写真はとても有効です…写真を見せながら、その時何を感じたのかを話すのです。すると、経歴だけでは分からない自身の人柄を伝えることができます。」
しまださん「たしかに、幡野さんのお人柄、よく伝わってきました。」
幡野さん「文字情報だけでは相手に自分のことを伝えるのは難しいです。文章はそれを読む相手に完全に依存しますからね。」
しまださん「たしかに。文章だけでやり取りしていた人と直接話すとイメージと違う、ということってよくありますよね。」
写真とその時のエピソード。感じたこと、考えたこと。写真がその人の視点で、その視点に入り込んで相手の言葉を聞く。すると自然と相手への理解が深まるような気がします。
(本日のミニワークにもつながる大切な気づきです)
つづいて事前に参加者の皆さんからいただいた質問を通して、テーマを深めていきます。
幡野さんにとって「いい写真」とは
幡野さん「僕が思ういい写真は”素直な写真”です。」
早速気になるキーワードが飛び出します。
幡野さん「下心のない写真です…自分をよく見せようとかSNSで”いいね”を集めるといった目的がないもの…人を撮るのであれば属性や年齢が近い人を撮るといいと思います。」
しまださん「同級生を撮るって案外面白いかも!純粋に楽しそう。」
写真の活かし方は?
スマートフォンを持つことが当たり前になって、気軽に写真を撮れるようになりました。たくさんの人が写真を撮っているけれど、それをどう活かしたらいいのでしょう。
幡野さん「さきほどの自己紹介のように、自分を表現する手段になると思います。素直な写真は自然とその人の人柄を伝えます。写真+非言語コミュニケーションで自分を表現してみてください。」
しまださん「撮っただけで終わっていた写真を、自分を相手に伝えるものとして使う、というのは新たな気づきです。」
なぜ写真についての本を出したのか
本当は書きたくなかった、とご本人も語る”写真”についての本『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』。この本を出版しようとおもったきっかけは何だったのでしょうか。
幡野さん「ある知り合いに写真の撮り方を教えたのです…そしたら劇的に良くなって…視点を与えるだけでこんなにも良くなるのだったら、世の中の人みんないい写真を撮れるようになるのではないか!という希望を感じたのです。」
しまださん「具体的にどのようなアドバイスをしたのですか?」
幡野さん「素直に撮ることを教えました。見たものを撮ればいいんだって。見たものはその人が興味を持っているものでしょ。だから素直な写真が撮れる。」
しまださん「なるほど!だから素直な写真は人柄が出るのか。」
幡野さん「被写体を探すのではいい写真は撮れません。肩の力を抜いて見たまま、感じたままを撮るのです。もっと気楽に写真を撮ったらいいのです。」
写真を撮る時に大切なことは?
幡野さん「写真は対人コミュニケーションです。相手(対象)との距離感が重要です。」
しまださん「相手に合わせて適切な距離を取るイメージですか?」
幡野さん「そうです。会話の現場においてコミュ力が高い人とは、自然と相手との距離感をはかって会話ができる人だと思うのです。写真も同じです。」
しまださん「何か好きなものを目の前にすると、騒ぐように写真を撮ってしまいますよね。ついつい距離が近くなってしまう。」
幡野さん「私たち写真家は息をするように写真を撮ります。対象への距離の取り方も自然なのです。」
人間にしか撮ることができない写真
AIが進化していく中で、写真さえも生成できてしまう時代。このような時代の変化を幡野さんはどのように捉えているのでしょうか。
幡野さん「ピンぼけ写真とか、いわゆる失敗写真はAIには難しいんじゃないかな。偶発的な写真は人間ならではだと思う。」
しまださん「偶然写りこんでしまった写真とか!そこにはその写真ならではなエピソードが含まれていますよね。」
幡野さん「そうですね。正しい写真=いい写真ではないですから」
しまださん「そこから読み取れるエピソードやメッセージが、人間の撮る写真の魅力なのかな…」
ミニワーク
ここからはミニワークの時間。
冒頭でも幡野さんが触れていた、写真を使った自己紹介を参加者のみんなで体験してみます。
幡野さん「写真を使った自己紹介をする際に気を付けるポイントは、写真を説明するのではなく、写真で説明してください…5W1H+感じたことを話してくださいね。」
会場の皆さん、カメラロールをあさってザワザワ
「懐かしい~」「ナニこの写真??」と楽しげな声が飛び交っています。
去年の今日。3年前の今日。5年前の今日。10年前の今日。
何を見て、何が聞こえて、どんな匂いがした?
どんな食感で、何を感じた?
写真がその時の記憶を呼び起こします。
写真とそれを語る人の表情や声のトーンがその人のことを伝えています。
参加者の方が「非言語コミュニケーション+写真」でお話してくださいました。
Aさん「最後の家族旅行でディズニーランドに行った時の、行きの新幹線で撮った富士山の写真です…写真を見返して幸せな気持ちになりました。」
幡野さん「写真がないと、10年前のことを思い出すことは難しいと思います。そこで写真を見返すと、記憶が鮮明に思い出される。写真が記憶のメモになっているのです。」
幡野さん「写真を使ったコミュニケーションは、その人のことがより好きになりますよね。」
しまださん「そうですね!みなさんのことをよく知れた気がします。」
幡野さん「非言語コミュニケーション+写真をうまく使っていってください。これは、自分を表現するのにも、相手を深く知る上でも有効です。」
しまださん「みんなで写真を振り返るというのも面白いですよね。新しい視点で記憶を思い出すと今まで気づけなかった自分に出会えることもありそう!」
幡野さん「写真は記憶を残す宝物です。その時感じたことを、写真が鮮明に思い出させてくれます。みなさんもっと気軽に写真を撮っていってください。」
編集後記
「写るものと写らないもの」というテーマで開催された本イベント。普段何気なく撮っていた写真が写していたもの、逆に写していないものって何だろう。こんな問いをたてながらお二人のトークを聞いていました。写真はその人の視点、という気づき。そこに写る私の好きなもの、はっとした瞬間の景色が、私の見ている世界を再現している。そして、そこには写らないその瞬間の感覚や付随するストーリーが一枚の写真の中に存在しているように思いました。写真の奥深さを知って、もっと写真が好きになった気がします!
(文:BONCHIスタッフ 清結菜)
